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テクニック - Technique - 作品づくり (単語を増やすには - 具体化の方法) < back - next >


■ 単語を増やすには? - どうやって身体でものを出してくるか

パントマイムの個別のテクニックは、語学にたとえるなら「単語」のようなもの、と前のページで説明しました。

しかし、これまでこのページで説明してきたテクニックは、「壁」、「マイム・ウォーク」、「風船」など数はたかがしれています。単語がこれだけでは、何か話をしようにも途方に暮れてしまいますね。

しかし、パントマイムは語学と違って、作品を演じるために必要なテクニックがいちいち辞書のようにマニュアル化されているわけではありません。作品に登場する「もの」や「できごと」で、テクニック化されていないものは、その都度どうやればうまく身体で表現できるか考えるのが現実です。

もちろん、そのためのコツはいくつかあります。


■ 特徴的な動きを見せる

たとえば、食事の様子をパントマイムで表現するとしましょう。
まず、どんなご飯かをイメージします。和食か洋食かあるいはもっと特殊な食べ物か。
イメージができあがれば、特徴的な動きがないかどうかを探します。特徴的と言っても難しく考える必要はありません。たとえば和食なら、茶碗を持って箸を使って食べますし、洋食ならナイフ・フォークを使います。実際にものは持ちませんが、箸や茶碗、あるいはナイフやフォークを持っているかのように、食事をする動きを演じれば、それでパントマイムの1シーンとして成立します。

普段、我々が話をするときに身振りが加わることがありますが、その延長と考えてもらってかまいません。前の晩に食べたステーキの話をするとき、ナイフとフォークを持った身振りをして話に興を添える、といったことがあると思いますが、やることはそれと変わりません。別に難しいことではないのです。

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だからといって、あまりいい加減にやると、今度は何をしているか分からなくなります。たとえば、箸で食事をしてる様子を演じるときに、手が口に近づきすぎているような場合があります。これでは、箸が頬を突き破っているように見えたり、あるいは爪楊枝を使ってご飯を食べているように見えたりします。

実際にものを使った感じはどうだったかをよく思い出しながら、丁寧に動くことが大切です。


■ さわって形を出してみる

上の例のように、「動き」を使って表現するのがマイムで「もの」を表現する基本です。しかし、「動き」以外での表現も大切です。

一番端的な例は「壁」です。動きとして表現できない壁をどうやって見せるかというと・・・、もうご存じの通り、さわってみることで壁の平らな感じや「不動性」を表現しているわけです。

動かないものですから、「固定」のテクニック、そして「平ら」な感じを出すために手を平らにする「同化」のテクニックの2つが重要になります。


では仮に、マイムで本を表現する場合はどうすればよいでしょう?


まず本棚やテーブルの上に置いてある本を手に取ります。このとき厚みや大きさをイメージして、その大きさに合わせて、手で本を触ります。お客さんは、演者の手の形などから、その物体のだいたいの大きさや形が分かります。


ここから先は上の「■ 特徴的な動きを見せる」と同じことになります。本の背表紙を手のひらにのせ、本の扉を開き、ページをめくる。この一連の動作で、その物体が本であることが分かります。



このように、物体を触ってみることは、その物体を表現するためのイントロとなります。続けて物体と関連する動きを見せることで、その物体が何であるかがはっきり分かることになります。
本の表現(の、つもり)

本の表現(の、つもり)
(上の画像をクリックすると、アニメーションが表示されます)

いまいちアニメーションをうまく作成できなかったので、わかりにくいかもしれません。
特に最初の部分では、何を出してきているのかわかりませんが、ページを繰る動きで、本であることが推測できます(できるとよいのですが・・・)。実際に演じた場合は、指の形や動きで本の形状や大きさ、紙の質感などが伝わるため、よりわかりやすくなります。

ちなみに、このアニメーションで読んでいる本は、活字が右から左に組まれている本です。日本語や中国語の縦書き組み版などですね。欧米諸国のように、左から右に活字が組まれている本が一般的な地域の方が見ると、違和感を感じるかもしれません。

「マイムは国境を越えた表現」などと言われますが、ときには演技者の国や文化の色が思わず出てしまうことがあります。このような例としてはほかに、食事の方法や、車の運転席の位置などがあります。


■ そのものになってみる

作品によっては、動物を主人公にしたい場合があります。こんな場合は、動物にもよりますが、実際に自分が動物になってみるという表現方法があります。
(※ これは、風船とロボットのページで説明した「同化」の応用と言えます)。

猫が主人公のマイムを作る場合は、やはり自分が猫になって演じるのが自然でしょう。で、ここがパントマイムのいいところですが、猫を見せるために猫のメーキャップや猫の着ぐるみをかぶったりする必要はありません。猫の特徴的な動きをやってみせることで、「あ、猫なんだな」と納得してもらえます。(まあ演出的に問題なければ、メークや着ぐるみを使ってもいいんですが)

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しかし、単にそのものになりきれば、すべてOKというわけではありません。猫のように動きに特徴の多い動物ならよいのですが、仮にラクダが登場する作品を作るとしましょう(そんな作品は滅多にないでしょうが)。ここで、いくらラクダになって形態模写をやって見せても、お客さんにはあまり分かってもらえないでしょう。

こんな場合は、どのように見せれば分かってもらえるのでしょう?

■ 一番わかりやすい手法を模索する

そのような場合は、「■ そのものになってみる」手法にこだわらず、ほかの手法が使えないかを検討します。

たとえばラクダなら形に特徴があるため、上で説明した「■ さわって形を出してみる」手法が使えます。
作品中に誰か人間を登場させて、コブの形を触って見せるようにすれば、ラクダであることが容易に分かってもらえます。ただし、作品の構成上、どうしても人間を登場させることができないなら、別の方法を検討します。

あるいは、を出す場合なら、今度は「■ 特徴的な動きを見せる」手法で、人間を登場させ、馬に乗り手綱を取って走らせるというシーンをどこかに入れると分かりやすくなります。

このように、ある手法がダメなら別の手法で、それでもダメなら手法をいくつか組み合わせて・・・といろいろ試行錯誤をしながら、一番分かってもらいやすいものの出し方を探していくのが、現実です。苦しくもあり楽しくもある作業です。

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上に説明した猫・馬・ラクダの表現をアニメーションで作ってみました(苦労した割には、できはいまいち)。いずれも動物なのですが、表現方法は特徴にあわせて、それぞれ工夫が必要なことがおわかりいただけるでしょうか?
(下の画像をクリックすると、アニメーションが表示されます)
猫
猫 (200 KB)
馬
馬 (285 KB)
ラクダ
ラクダ (135 KB)
「猫になる」ことで、猫を表現しています。アニメーションではちょっと無茶なことをしています。実際には、毛づくろいやじゃれる仕草などをするのが、(肉体的に)楽でしょう。
馬に乗って並み足で歩くことによって、馬が表現されます。馬上で馬に揺られているところだけでもよいでしょう。
ただし、馬が主人公の作品(なんてのがあるかどうかはともかく)では、この手法だけでは厳しくなります。そのような場合には、自分が馬になって見せざるを得ないかもしれません。それでも、作品のどこかにこのような描写をはさんで「馬」であることがわかってもらえるように心がけます。
ラクダの場合、乗ってみたところで馬と区別が付きません。幸い、ラクダは形状に特徴があるため、輪郭をなぞるという手法が使えます。
アニメーションでは、形をなぞっているだけですが、実際には、手綱を引っ張るなどして、何か動物がいることを事前に表現しておくとよいでしょう。
ところで、実際のラクダはもっと大きいですが、そこは表現上やむを得ないということで・・・。

※ なお、登場人物(動物?)が2人(匹)以上現れる場合は、「キャラクターの切り替え」という手法も必要になります。これに関しては、次のページ「■ 見せ方 (1) - 作品を考える、舞台での動き」で説明します。


■ 作品の構成を工夫する

上のラクダの例のように、すぐには分かってもらえないものを出す場合は、作品の中に説明的な描写をできるだけ入れるようにするとよいでしょう。

もちろん、作品のテンポや雰囲気などにも関係するため、描写すればそれでいいというものではありません。作品の中に自然にとけ込むような描写のシーンを用意するなど、構成に工夫が必要です (この辺は小説やらでの描写の盛り込みかたと似ているのではないでしょうか)。

ラクダの例だと、今は動物園で飼育されている年老いたラクダが、アラブの隊商で荷物を運んでいた頃にかわいがってくれた少年のことを回想する・・・というシーンを挟むとか。その少年がラクダのコブをさすったりして、ラクダであることを分からせる、というわけです。

・・・いくら例とはいえ、ラクダで作品らしきものをひねり出すのはさすがに苦しい。
この例の場合、本当に検討すべきなのは、「ラクダの出し方」よりもむしろ「作品を工夫して、ラクダを出さなくても済むようにする」ことかもしれません。


■ どうしても出せないものだってある

しかし、いくらがんばってもマイムでは表現できないものはあります。

たとえば「相対性理論」と書いてしまえば、漢字5文字で済みますが、マイムでこれを表現する(分かってもらえる表現にする)というのはまず不可能です。
理論・概念のほかにも具体的な色の名前なんかはかなり困難です。マイムで「赤」を表現せよと言われたら、抽象的な動きで表現するか、赤い何かを出してきてお茶を濁すしかありません。

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また、よく似ているものの区別も出しにくいです。

たとえば果物の梨を出そうとしてやってみても、お客さんのほとんどにはリンゴとしか思ってもらえないことでしょう。

このあたり、言葉の持っている正確性を期待すると、作品は作れなくなります。
逆に言うと、ものの形や色、雰囲気など、どのようなものが見えてくるかは、お客さんの想像力に大きくゆだねられることになります。この点こそが、まさにマイムの最大の魅力(あるいは弱点)と言えます。
小説や詩も、言葉を介して読む人の想像力を刺激して世界を作り出すため共通点はあります。しかし、マイムの場合、言葉よりもはるかに観客にゆだねる部分が大きいのです。


■ 日頃の訓練

語学の学習に単語を増やすのがつきものであるように、マイムでも単語を増やすための日頃の訓練が欠かせません。

マイムで具体的なものを出してくることを「具体化」と呼んでいます。僕が受けていたレッスンでは、中途半端に空いた時間ができると、「では具体化いきましょう」と、先生の出したテーマに沿って一人ずつものを出してみせるという練習をしていました。

テーマは、簡単なところでは上に書いたような「動物」であるとか、「飲み物」、「職業」、「冬の風物詩」、「コンビニにあるもの」などなど。ときには、マイムで尻取りをするというようなこともやっていました。「リンゴ」→「ゴリラ」といった風に出して行くわけですね。これはおしまいに「ん」が付くものが出せないのが難点ですが、勘違いで思わぬ方向に転がったりして、なかなか面白いです。

このような訓練は、表現力を高めるだけでなく、舞台度胸や即興の訓練、作品づくりのきっかけにもなります。できれば複数の人が集まって、わいわいと意見をいいながら、練習をするとよいでしょう。

そうやって数をこなし、固定などの基礎的な身体の使い方をきっちり訓練していけば、マイムでものを表現するのにそんなに苦労しなくなるはずです。

何でもそうですが、最後には地道な練習がものを言うというわけですね。






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