どれくらい、この求人広告を取り出しては眺めたことだろう。
このご時世に景気がよすぎる話だった。
簡単な仕事で、現場の広さに合わせた歩合給とある。必要な資格は運転免許のみ。
気になるのは、ここ数カ月、この求人が何度となく現れては消え、消えては現れしていたことだ。つまり、まったく人が定着していないことになる。人から聞いた話では、何でもその職場をやめていく者は、決まって腹を立ててわめきながら、あるいはヒステリックに会社をののしりながら、出て行くそうだ。
普段の俺ならもちろん、そんな仕事に寄り付きはしない。だが、なにせせっぱつまっていた。失業保険が切れてすでに半年。食わせなきゃならない女房、子供もいる。
俺は腹を決め、履歴書を持ってその怪しげな仕事の事務所を訪れた。
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採用は、即座に決まった。
仕事の内容は、何のことはない、道路の舗装だ。俺の採用を決定した総責任者の説明はこうだ。
「当社開発の最新マッシーンを使用するので、シロートでも何の訓練もなしに、マッシーンを移動するだけで舗装ができるのですよ」
「マシンは貸してもらえるのですか」
「ああ、その点はご心配なく。仕事に必要なものはすべて、こちらで貸与いたしますよ。もちろん、無料です。
・・・そうそう、お支払いのことをちゃんとお話ししとかにゃいけませんな。すでにご存じとは思いますが、このお仕事は歩合制になっとります。舗装した区画の1ブロックにつき100円のお支払いです。1つの現場はたいてい数十ブロックはありますからな。現場はせいぜい10分もあれば片付きますんで、たいしたかせぎになるでしょ、えぇ?」
確かに、たいしたものだ。だが、話がうますぎる。
「・・・ただし、注意してもらわにゃならんのが、舗装したての道路ですな。当社の特製舗装マッシーンですが、これが地面を引っ掻き回すようにできとりますので、舗装したてのところを通るとわやになってしまうのですわ。
舗装材の費用が結構かさむうえに、二度手間になるというわけで、舗装を台なしにするようなことがありましたら、1ブロックにつき500円のペナルティを払ってもらうことになっとります」
・・・そういう仕掛けか。
「要は一度通ったところを、二度通らなければよいのですね」
「理屈はそうですが、相当入り組んでおる現場もありまして、現実にはなかなか理屈どおりにはいかんのですな、これが。
ま、ともあれ、頑張ってくださいな。ほーっ、ほっほう」
カンにさわる笑い声を残して仕事の総責任者は行ってしまい、後に残されたのは、舗装には相当威力があるらしいマシンと、使い方の指示書(読んで見たが、シロートでも確かに簡単に扱える)、それに現場への地図だった。
俺は、どうにも不安を拭い切れないまま、しぶしぶ現場に向かった。
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往時のベーマガ風にストーリーを作ろう、と思って書いていたら無駄に長くなってしまった・・・。ボツ。